加速器が抱えている問題
日本語で加速器というとどうも曖昧な表現だと感じています。
加速器、は詳しくは「荷電粒子加速器」、
charged particle acceleratorです。
加速された荷電粒子は放射線と同じような振る舞いをします。
放射線は主に崩壊しやすい元素が自然と出す高エネルギーの粒子です。
加速器は電気エネルギーを荷電粒子に与えて
高エネルギーの荷電粒子を作り出すものです。
もっとも身近な加速器は蛍光灯とテレビです。
どちらも電子を電圧で加速しています。
加速器には必ずターゲット(標的)がついてきます。
蛍光灯であれば管内の水銀蒸気、
テレビであればブラウン管の蛍光塗料がターゲットです。
高エネルギー加速器のターゲットは主に
元素か、あるいは加速された粒子自身です。
電気工学の発達によって加速器はどんどん大きくなりました。
最初は研究室ひとつ分ぐらいで間に合っていたのですが、
現代ではひとつの県を囲んでしまえるほどの敷地が必要になり
それに合わせて建設予算も雪ダルマ式に大きくなってきました。
先端物理のために、国家予算が必要な時代になっています。
しかしそれでも加速器が作られ続けるのは、
基礎科学の先端を走ることが先進国の象徴であり、
自国の技術をさらに向上させる原動力となりうるからです。
このブログを立ち上げるきっかけになった出来事について
誘導加速シンクロトロンとは、
円形加速器であるシンクロトロンのビーム加速装置を
誘導加速器によって構成する技術です。
CARE-HHHに参加して
2004年11月、スイスとフランスの国境にあるCERNに出張し、
誘導加速シンクロトロンの第1段階が成功したことを報告しに行きました。
加速器フロンティアの目標は、
・高いビームエネルギー
・高いビーム強度
・高いルミノシティ(反応量)
を持つ加速器を建設することです。
シンクロトロンではRF(高周波)を用いる限り、ビーム進行軸方向のビーム操作は
できないという原理的限界を超える手段として
誘導加速シンクロトロンは提唱されました。
ビームの大強度化を可能にするこの技術の原理実験が2004年10月にした、
これは大強度ビームを必要とするCERNのLarge Hadron Collider(LHC)にとって
朗報であることを期待して会議に臨んだのですが、
そこでは数多くの「スーパーバンチが物理実験に使用できない理由」を声高に標榜する
CERNの研究者の姿を目の当たりにすることになりました。
正直、面食らいました。
確かに、LHCが目標とする4MWビームは誰も現実的に考えたことがないほど強力なパワーです。
そのビームは少しでも軌道を外れてしまえば8T(8万ガウス)、液体ヘリウム冷却の超伝導磁石をいとも簡単に破壊してしまいます。
しかし、そのデメリットを差し引いても、ビームが大強度化することは
加速器にとって良い知らせであり、反駁を受ける要素であるはずがありません。
これは、加速器の最先端を誇ってきた西洋の研究者にとって「西洋以外の技術」によって
計画の変更を求められることは沽券に関わる大問題だったのだろうと考えます。
比較的日本人は西洋の技術を取り入れることに寛容であったと思いますが、
同じ理屈は西洋に通用しないようです。
誘導加速シンクロトロンはビームの周回周期が遅いほど適用がしやすいので
LHCやFNALなどの、大型シンクロトロンへの応用を考えながら
プロジェクトを進めてきたのですが、
今後の応用については国籍の違いというものを意識しながら
進めていく必要性を感じました。
日本で生まれたこのプロジェクトを進めていく
最良の土壌は、この日本であると実感しています。
先進国と呼ばれるようになって久しいこの国の技術を総動員して、
誘導加速シンクロトロンの広い世界的応用を目指すため、
このブログで誘導加速シンクロトロンの情報発信をしたいと考えています。